偽りの仮面 第7話


「改めてお伺いします、咲世子さん」

ナナリーは咲世子に話しかけた。レジスタンスとテロリズムは目的も主張も似ているが、違うものなのだとスザクには理解し、答えを出して欲しい。スザクには改めて考える時間が必要なのだ。

「はい、ゼロの事でございますね」
「はい。どのようにお考えですか」

ナナリーがどのような答えを望んでいるかは何となく理解できたが、これが反ブリタニア勢力の関係者を引きずり出すための策かどうか判別はまだできていない。

「ナナリー様、その前にお聞きいたしますが、どのような理由でこのような質問をされているのでしょうか」
「咲世子さんとスザクさんが、私の敵か味方かを知るためです」

ナナリーは迷わず答えた。
思わぬ回答に咲世子は首を傾げ、スザクは驚き顔をあげた。

「待ってナナリー、もしかして・・・」
「スザクさん、私がここまで心を砕く相手が誰か、気付かなかったのですか?それにあの足音と話し方。たとえお声を変えていたとしても私はすぐにわかりました。それなのに、スザクさんは本当に気付かなかったのですか?それとも、スザクさんのために命をかける方が他にもいるのでしょうか?」

何を今更と、優しげな笑みを浮かべ小首を傾げるナナリーに、全身に電流が駆け抜ける思いがした。ナナリーがここまでいう相手など、一人しかいない。

「な、なんでそんな危険か事を!?すぐに辞めさせなきゃ!」
「スザクさん、そんなことをすれば、私達とは二度と会えなくなりますよ?」
「え!?」

何を言われているのか判らず、スザクは困惑した。

「説得されて考えを改めるような覚悟で動いたと思いますか?スザクさんには4つの選択肢があります。ひとつ目は、私たちを軍に差し出すこと。きっと褒章をもらえますね。ふたつ目、このことを口外せず胸に秘め、知らぬ存ぜぬで通すこと。みっつ目、私たちがここを立ち去るまで無駄な説得を続けること」

ナナリーは厳しい表情で、貴方が選ぶのは3つ目でしょう?と言った。心を見透かされたような状況にスザクは息を呑み、ああ、ナナリーはルルーシュの妹だからこのぐらい予想することはできるのかと思い至った。
確かに説得する道を選ぼうとした。きっとルルーシュなら解ってくれると・・・でも、ナナリーを置いて自分の命が危険にさらされる状況に飛び込んだということは、並々ならぬ決意があったからこそ。
その仮面を失えば、身元がバレる。それはナナリーの居場所が知られることを示し、皇族だとバレなくてもテロリストの妹としてナナリーは牢に入ることになる。
それほど危険な事をしていると、ルルーシュが気づいていないはずがない。
あのルルーシュがナナリーの命さえ賭けて動いているのだから、説得など無意味。
二人を軍に差し出すなんてするはずがないし、これを知った以上、知らなかった状態になど戻れない。
スザクはこの7年で・・・いや、この17年間で一番頭を使っているのではないかと思うほど真剣に考えた。そのせいか、頭に熱が溜まり目眩がする。顔面蒼白で手で顔を覆うスザクは、もう何をどうしていいのか分からなくなっていた。

「あの~よろしいでしょうか?」
「はい、何でしょうか?」
「もしかしてとは思いますが・・・ゼロは、ルルーシュ様なのですか?」
「はい、そうです。ゼロはお兄様です」

今までの会話からたどり着ける答えはそれしか無く、にっこり笑顔で肯定された。

「ルルーシュ様が・・・あの、失礼ですが、ルルーシュ様はその、階段や何も無いところでも躓かれますし、運動の方もその・・・」

同じ場所に暮らしていれば、ルルーシュの体力の無さも、どこか抜けているところも目に入る。体育の授業だって何度も目にしている。
・・・正直、裏に回って画策するならわかるが、あんなに堂々と「私が標的です!」と主張する場面に立つだなんて自殺行為としか言えなかった。

「あああああっ、やっぱり駄目だ、駄目だよ!絶対捕まっちゃう!!」

スザクは髪をかきむしりながら叫んだ。
ルルーシュはドジっ子なところがある。絶対何処かでイレギュラーが発生して(※スザクで体験済み)そのイレギュラーのせいで大変な目にあって(※スザクで略) 捕まりかけるんだ!!(※ス略)もし捕まったらどうなると思ってるんだ!君みたいな人がテロリストなんて!死んでも問題ない、消えても問題ないと思われたら最後・・・・

「うわあああああっ!嫌だっ!想像したくない!僕のルルーシュに触るな!!ルルーシュっっ!!」

突然叫びだしたスザクの妄想の内容を即座に理解して、やはりスーさんとルルーシュ様はと咲世子は二人のただならぬ関係に確信を抱いた。
ナナリーは表面的に笑顔だが、冷え冷えとした空気をまといながら言った。

「今のままではとても危険だと解っていただけましたか?ですから、お二人には4つ目の選択肢を選んで欲しいのです」

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